【パワハラ/メンタルヘルス】人事労務担当者が把握すべきポイント
メンタルヘルスの現状と、企業リスク
メンタルヘルスというキーワードが、人事労務の領域で取り上げられるようになり久しいですがその現状は具体的にご存知でしょうか。
厚生労働省が発表している資料を見ると、仕事や職業生活に関することで、強いストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合は58.0%となっています。
その中でも、強いストレスの原因となっているものについては「仕事の質・量」「仕事の失敗、責任の発生等」「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」が多く、長時間労働や過重労働、ハラスメントに関連するようなことが主となっています。(出典:厚生労働省発表資料「職場における心の健康づくり」)
こういった現状がある中で、メンタルヘルスが企業に与える影響は多く存在します。
どういったリスクがあるのか、改めて確認しておきましょう。
①職場環境の悪化・生産性の低下・人材の流出
②精神疾患等のリスク
メンタルヘルスの悪化により、うつ病等の精神疾患を発症する可能性があります。最悪の場合、死に至ることも。パワハラ、セクハラを受けた事実により労災認定されるケースもあり、会社の責任が問われます。※2020年5月 精神障害の労災認定基準に「パワハラ」が追記
③損害賠償のリスク
会社も民事上の責任を問われ(使用者責任、職場環境配慮義務違反)、精神的損害や財産的損害(退職による逸失賃金、治療費等)に対する慰謝料等の金銭的リスクが発生する可能性もあります。
④風評被害のリスク・業績への悪影響
訟等に伴う企業名の報道や、SNSの普及により、クチコミ等による企業の信用失墜、業績(顧客離れ)や採用、株価への悪影響もあり得ます。
こういったリスクを考慮し、企業はメンタルヘルス対応は積極的に実施していく必要があると言えるでしょう。
皆さんは、メンタルヘルス対応を後押しするような近年の法令の動きを確認できているでしょうか。
メンタルヘルスに関する法令の動き
メンタルヘルスに関連する主な法令として、
働き方改革関連法と、パワハラ防止法があります。
働き方改革関連法については、既に多くの会社様で問題視・具体的な対応が進んできているのではないでしょうか。
働き方改革関連法の改正の目的は、「働き過ぎ」を防ぎながら、「ワーク・ライフ・バランス」と「多様で柔軟な働き方」を実現することです。メンタルヘルスの実現とも密接に関連しています。
時間外労働の上限規制や、有給休暇の5日間の取得義務等についてもジョブカン通信にまとめておりますので、よろしければリンク先の記事をご確認ください。
実は、働き方改革関連法により、産業医・産業保健機能の強化についても改正がされているのをご存知でしょうか?
まず、産業医の活動環境の整備について改正がなされています。
事業者は長時間労働者の状況や、労働者の業務の状況等、産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要な情報を提供する必要がありますが、改正により、この情報提供をより充実・強化することが求められています。
また、事業者は、産業医から受けた勧告の内容を、事業場の労使や産業医で構成する衛生委員会に報告する必要があります。改正により、産業医の活動と、衛生委員会との関係強化が定められました。
労働者に対する健康相談の体制整備や、労働者の健康情報の適正な取扱いルールの推進についても改正が行われています。
事業者は、産業医等が労働者からの健康相談に応じるための、体制整備に努める必要があります。事業者による労働者の健康情報の収集、保管、使用及び適正な管理について、労働者が安心して健康相談や健康診断を受けることができるように、指針が定められました。
また、労働者数によって定められている義務も存在します。
「気付いたら義務化の対象だった」「義務化対象なのに対応を忘れていた」ということがないように、下記ポイントを確認しておきましょう。
産業医の選任の義務
事業者は、事業場の規模に応じて、以下の人数の産業医を選任し 、労働者の健康管理等を行わせなければなりません。
① 労働者数50人以上3,000人以下の規模の事業場・・・1名以上選任
② 労働者数3,001人以上の規模の事業場・・・2名以上選任
また、常時 1,000 人以上の労働者を使用する事業場と、有害業務に常時500人以上の労働者を従事 させる事業場では、その事業場に専属の産業医を選任しなければなりません。
産業医紹介サービスは色々と存在しますし、社労士法人がコンサルティング業務の1部として行っている場合もあります。産業医の選定に迷った場合には、一度相談してみると良いでしょう。
ストレスチェックの実施義務
事業者は、常時使用する労働者が50名以上の事業場に対して、1年以内ごとに1回、医師、保健師等による心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)の実施しなければなりません。
※労働者数50人未満の事業場は当分の間努力義務とされています。
注意点としては、検査結果は、検査を実施した医師、保健師等から直接本人に通知され、本人の同意なく事業者に提供することは禁止されています。
また、検査の結果、一定の要件に該当する(高ストレス者である)労働者から申出があった場合、医師による面接指導を実施することが事業者の義務となります。また、申出を理由とする不利益な取扱いは禁止です。
そして、面接指導の結果に基づき、医師の意見を聴き、必要に応じ就業上の措置を講じることが事業者の義務となります。
ジョブカン労務管理ではストレスチェックを行うことも可能です!
パワハラ防止法の概要とパワハラの定義
まずは、ハラスメントの定義を確認しておきましょう。
ハラスメントとは…
相手の意に反する不適切な言動を行い、相手に精神的な面を含めて
不利益や損害を与えたり、就労のための環境を悪化させること
ハラスメントの主な種類は下記の3つです。
①パワーハラスメント
職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為
②セクシャルハラスメント
職場において行われる、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されること
③マタニティハラスメント
上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した「女性労働者」や育児休業等を申出・取得した「男女労働者」等の就業環境が害されること
セクハラ・マタハラでは既に防止措置が義務化されていましたが、(男女雇用機会均等法、育児介護休業法)今回、新たにパワハラについても防止措置が義務化されるようになりました。
パワハラ防止法の概要
パワハラ防止法は、改正労働施策総合推進法(30条の第1項)によって定められています。
改正内容としては、パワーハラスメント定義の明確化と、事業主に対して、パワーハラスメント防止のための雇用管理上の措置義務の新設が主な内容です。大企業は2020年6月1日より義務化、中小企業は2022年4月1日より義務化となっています。(それまでは努力義務)
現時点で罰則はありませんが、是正指導や、企業名公表の対象です。
また、訴訟においては、大企業・中小企業の別は関係ありませんので、企業の規模を問わず、注視しておくべき内容ですね。
具体的に、パワーハラスメントを防止するために行う必要のある措置は下記です。
1. 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
2. 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
3. 職場におけるパワーハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応
4. 1から3までの措置と併せて講ずべき措置
それぞれの措置について、具体例を見ておきましょう。
1.事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
- 職場におけるパワハラの内容・パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること
- 行為者について厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、労働者に周知・啓発すること
(例)ハラスメントへの取組について
株式会社○○○ 代表取締役社長○○○
職場におけるハラスメントは、労働者の個人の尊厳を不当に傷つける社会的に許されない行為であるとともに、労働者の能力の有効な発揮を妨げる要因になります。また、会社にとっても職場秩序や業務の遂行を阻害し、社会的評価に影響を与える問題です。性別役割分担意識に基づく言動は、セクシュアルハラスメントの発生の原因や背景となることがあり、また、妊娠・出産・育児休業等に関する否定的な言動は、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの発生の原因や背景になることがあります。このような言動を行わないよう注意しましょう。また、パワーハラスメントの発生の原因や背景には、従業員同士のコミュニケーションの希薄化などの職場環境の問題があると考えられますので、職場環境の改善に努めましょう。
※当社では、ハラスメントに関する相談窓口を設置しております。
ハラスメントの報告や相談を受けた場合、従業員の皆さんのプライバシーには慎重に配慮し、不利益な取り扱いをすることは決してありませんので、一人で悩まず相談窓口へ相談して下さい。
2. 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること
- 相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。職場におけるパワハラ の発生のおそれがある場合や、パワハラに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応すること
相談窓口の設置・運用にあたって考慮すべき点としては、まず相談担当者の選定です。
可能であれば、男女含めた2名以上が望ましいとされています。また、社外に相談窓口を設置することも考えられる(弁護士事務所等)でしょう。
相談受付方法(メール、電話、面談等)の決定と周知 、相談対応指針やマニュアルの策定 、相談担当者の教育・研修なども必要になります。
1つポイントとして理解しておきたいのは、ハラスメントの相談が多いことイコール悪ではないということです。「ハラスメント(の相談)がない会社」ではなく、「相談できる体制が整備されており、 ハラスメントの事実があれば適切に対応等を実施している会社」がよい会社と言えるでしょう。
3. 職場におけるパワーハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応
事前の社内の環境整備の他に、事後の対応フローを定めておくことも大事になります。
- 事実関係を迅速かつ正確に確認すること
- 速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと …①
- 行為者に対する措置を適正に行うこと …②
- 再発防止に向けた措置を講ずること …③
※①②は事実確認ができた場合、③はできなかった(事実がなかった)場合も同様
4. 1から3までの措置と併せて講ずべき措置
- 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること
- 相談したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発 すること
メンタルヘルス対策に求められること
健康経営の観点からも、職場におけるメンタルヘルス対策において一番重要なことは、心の病から回復させることではなく 「心の病を未然に防ぐこと」であり、なによりも「予防」が大切といえます。
実際に心の病になってしまった従業員を職場で回復に向かわせることはかなり難しいのが現状です。また、職場のストレス要因は、従業員の個別の努力では除去できない場合が多いため、職場のメンタルヘルス不調を「予防」し、心の健康を確保するために、職場を中心とした組織的な取り組みが大切です。
メンタルヘルスの領域には様々な専門家がいます。
是非、社外の専門家も頼りながら、社員のメンタルヘルス不調予防に取り組んでいきましょう。
働き方改革においては、生産性向上や時間外労働削減の部分にクローズアップし語られる事が多いですが、本質的に考えるべきは「働きやすい・働きがいのある会社や職場づくり」です。それは会社にとっての「業績向上」にも繋がってきます。
メンタルヘルスへの取り組みを行う際には、目的を明確にし、自社にとって働きやすい環境とはどういった環境なのか、といったところまで考えることで、社内にも浸透しやすく、経営層の理解も得やすくなるのではないかと思います。