【チェックリスト付き】産休・育休の対応事務の手引き完全版①
出産育児に関わる手続きは、様々な法律、役所が関わってくるので、提出先や提出期日など様々なルールに対応しなければなりません。
うっかり忘れがちな手続きも一目でわかるよう、事務担当者がそのまま使えて、従業員への説明・必要な書類依頼も完備する、チェックリストに基づいて解説をしていきます。
全3回の連載記事とし、今回の第1回目では主に産休関連について解説します。次回以降は、育休関連、職場復帰に関してです。では、早速産休についてポイントを確認していきましょう。
そもそも産前産後休業って?
母体保護のために、労働基準法で定められた出産日以前6週間(双子以上の場合は14週間)出産日後8週間の休業のことです。産前の期間は、本人が休業を請求した場合に休ませなくてはならなく、産後は、就業させてはいけません。
会社によっては、休業規定でもっと長い休みが取れるよう定めている所もあるかと思いますが、ここでは、あくまで保険料免除や出産手当金の対象となる期間としての「産前産後休業」について解説いたします。
そのまま使えるチェックリストが下記よりダウンロード可能です(クリックするとすぐにダウンロードできます)
産前産後休業申請書(社内書式)
まず、出産する本人より、産休の申請をしてもらいます。
会社へ「産前産後休業を取得します」と宣言するための申請書類、社内用なので書式も自由です。
法的に義務付けられている訳ではありませんが、書類を提出することにより、出産者が安心して休業取得できます。また本人自ら記載していただく事により、各種手続きを行う際の根拠にもなります。産休前最終出社日の大体1か月前までに提出してもらいます。
産前休業については「本人が請求すれば」とあるように、申請あって初めて休ませる義務が生じます。逆にいえば申請なければ出産日まで働かせていても構わないのです。ただ、周りから見て明らかに妊娠しているのに、本人が申出て来なかったからといって、説明も配慮も怠っていると、万が一健康障害などが生じた場合、会社に対して「当然妊娠を知っていたはずだ」として安全配慮義務違反で損害賠償請求がなされる可能性もあります。
※産後8週間は原則就業させてならないが、産後6週間を経過した従業員が働きたいと請求した場合には医師が就労させても問題ないと認めた業務に限り認める
こうした事態を避けるためには、産休取得の規定を明文化し、取得ルールを定めておく事が大事なこととなります。産前産後休業の他にも、妊娠中の女性に対する配慮義務は多くありますので、合わせて整備しておきましょう。
(下記 書式イメージ)
特別徴収している住民税徴収方法の確認
住民税は、昨年の所得を元に決定し、6月~翌年5月までの12か月で、会社を通して市区町村におさめる「特別徴収」が原則です。社会保険料は産前産後休業、育児休業中は免除になりますが、住民税の免除はありません。徴収できる給与がない期間はどうするかを確認しておく必要があります。
一番手間が少ないのは、最終給与で一括徴収するか普通徴収に切替えてしまう方法です。産休・育休者の住民税管理から解放されます。他には、本人に毎月か数か月分まとめて振込してもらう方法、会社が立て替える方法等ありますが、経理部門の入金確認や、預り金消込等の手間が発生するのでお勧めしません。
出産育児一時金(付加金)の請求方法の確認
出産費用の申請方法について、会社で手続きする必要があるかを確認します。
正常な出産は病気でないため、その費用は医療保険の療養の給付対象外です(窓口支払いが3割負担にならない)。その代わり健康保険より出産費用の補助として出産育児一時金の給付があります。現在、協会けんぽであれば一児につき42万円(または40.4万円)、健康保険組合では、上乗せ給付として付加金制度があるところもあります。
健康保険でいう「出産」とは妊娠4か月(85日)以上を経過した後の生産、流産、死産、人工妊娠中絶を指します。帝王切開や妊娠中毒症などは病気として扱われるので療養の給付対象です。
出産育児一時金は、現在では出産した本人に代わって医療機関等が健康保険に直接請求する「直接払い制度」の利用がほとんどです。この場合、医療機関と合意文書を交わすのみで、出産者は多額の窓口支払をする必要がなくなります。出産者本人も、会社の事務担当者も申請に係る手続きは必要ありません。
以下の場合には申請手続きが必要になります。出産者がどこに該当するか確認のうえ、必要な手続き、必要書類についてはチェックリストに追記しておきましょう。
- 出産費用が出産育児一時金の額より少ない場合(差額が被保険者に支給される)
- 健康保険組合加入で、出産育児一時金付加金の制度がある場合
- 直接払い制度を取り扱っていない病院の場合
- 本人が直接払い制度を希望しない場合
産前産後休業取得者申出書(ジョブカン労務HRで作成・提出可能)
産前産後休業中の社会保険料免除についてです。
申請することにより本人分、会社負担分ともに社会保険料が免除になります。
産前の提出の場合、出産予定日以前42日間で実際に産前休業を始めた日を休業開始年月日、出産予定日後の56日間を終了予定年月日として記入します。提出できるのは、実際に産前休業を始めた日以後になります。
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産前産後休業取得者申出書/変更(終了)届(ジョブカン労務HRで作成・提出可能)
保険料免除の期間を実出産日にあわせて変更します。
出産日が出産予定日どおりでなかった場合、産前産後休業の期間が変わるので(保険料免除月も変更になる場合がある)、変更届を提出します。
出産予定日と実出産日とのずれによって休業開始日が早くなる可能性もありますし、休業終了日が早くも遅くもなります。
一般的には、産前休業開始したら「産前産後休業取得者 申出書」を提出し、出産後に(出産日変わったら)「産前産後休業取得者 変更届」を提出する流れです。ちなみにどちらも「産前産後休業取得者 申出書/変届(終了)届」という同じ用紙です。
産前休業の終了は実際の出産日までとなりますので、終了日が前後することはありますが、出産が遅れたからといって休業開始日まで後ろにずれることはありません。出産予定日の42日前よりも早めに休み始めた場合は、社会保険料の免除開始月が変更となる可能性がありますので、ご注意ください。
二度も手続きするのは面倒ということであれば、出産後、産前産後休業期間が確定してから「産前産後休業取得者申出書」を提出しても構いません。ただしこの場合の注意点としては、提出前の社会保険料は請求されます。会社は、その期間分の保険料を一旦納付することになりますが、免除申請後に遡って保険料調整されます。
被扶養者届
生まれたお子さんは、本人の扶養に入りますか?
一般的には、配偶者である夫の扶養に入る事が多いですが、念のため確認しておきます。なお、生まれてすぐにマイナンバーは発行されていないので、その旨記載する事でマイナンバーなくても手続き可能です。(本人の扶養になるかの確認は、産休前にしておいたほうがいいでしょう。)
出産手当金支給申請書
産前産後休業中の賃金補償についてです。
健康保険の被保険者が出産のため会社を休み、その間に給与の支払いを受けなかった場合は、出産手当金が請求できます。休業中の賃金補償の意味あいとなるので「休み」+「給与の支払いがない期間」が対象です。
申請手順は、医師等の証明(出産日と出産の事実について証明)、事業主の証明(休業と賃金についての証明)が必要になりますので以下の流れで進めるとスムーズです。
- 申請用紙はあらかじめ本人に渡しておく。
- 本人は出産後、入院中または産後の検診時に医師の証明を貰っておく
- ①の書類を会社宛てに送る
- 事務担当者は、産後8週間が経過したところで、事業主証明欄を記載し健保へ申請する。
また、出産者は休み始めてすぐ、又は出産したらすぐに出産手当金が貰えるものと勘違いする方も多いので、産後休業が終わってからの請求になる旨お伝えしたほうが良いかもしれません。
金額は、給与の約3分の2相当額です。標準報酬月額をもとに計算されますが、標準報酬月額が今現在のものではなく休業開始日から遡り12か月の平均ということで、会社で金額を出す事が難しくなりました。どうしても知りたい場合には、加入している健保に問い合わせを勧める対応で良いでしょう。
出産手当金は、産後休業終了後にまとめて請求すれば問題ありませんが、産前分、産後分などの複数回に分けて申請することもできます。この場合、事業主の証明は毎回必要になります。(医師の証明は省略可能な期間もあります)
産後8週間経過後の出産手当金申請をしたら、産休に関する手続きは終了です。次回は、産後休業終了日翌日からそのまま育児休業に突入する「育休編」となります。更新をお待ちください。
社会保険労務士法人レガリア | 中島 丈博
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