わかりやすく社労士が解説!人事労務Q&A【賃金編】
賃金請求権の消滅時効期間の延長となる労働基準法の一部改正が2020年4月に行われましたが、未払い賃金を発生させないためにも、割増賃金の支払い等についてはしっかり理解・対応しておく必要があります。
こちらの記事では、割増賃金や最低賃金等に関して、よくあるご質問をQ&A形式で社労士がわかりやすく解説します!
Q.最低賃金制度とは何ですか?また自社の給与と最低賃金を比較する時の留意点はありますか?
A.最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低額を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとする制度です。
最低賃金には、都道府県ごとに定められた「地域別最低賃金」と、特定の産業に従事する労働者を対象に定められた「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。
「特定(産業別)最低賃金」は「地域別最低賃金」よりも高い金額水準で定められており、地域別と特定(産業別)の両方の最低賃金が同時に適用される労働者には、使用者は高い方の最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません。
具体的には、実際に支払われる賃金から対象とならない賃金を除外したものが最低賃金の対象となり、支給形態ごとによる計算方法は図のとおりです。
【最低賃金の対象とならない賃金】
- 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
- 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
- 所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
- 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
- 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
【計算方法】
(回答:福本 祐子)
Q.定額残業手当制度の運用上の留意点とは何ですか?
A.定額残業手当(固定残業手当とも言います)制度とは、時間外労働、休日労働、深夜労働の有無にかかわらず、一定時間分の時間外労働などについて割増賃金相当額を毎月、固定的に支払うものです。
判例に基づく運用上の留意点は以下のとおりです。
- 定額残業手当を他の手当と明確に区分して支払う
- 定額残業手当の金額と想定している時間数を明示する
- 定額残業手当で想定している時間数以上に時間外労働等を行った場合には、差額を追加で支払う
定額残業手当を不適切に運用し、その制度が無効とされてしまった場合、定額残業手当についても割増賃金の基礎となる賃金に組み込まれ、結果として、高額な未払い残業代を改めて支払うことになりかねません。管理運営上のメリットはありますが、適切に設計、運用を行うことが重要です。
(回答:福本 祐子)
Q.割増賃金計算に必要な月平均所定労働時間とは何ですか?
A.月平均所定労働時間は、月給制で月によって所定労働時間が異なる場合の割増賃金計算に使用し、1年間の合計の所定労働時間を12か月で割り、1か月あたりの平均の所定労働時間を計算したものです。
以下の手順により計算します。
- 会社の年間休日を数える
- 年間所定労働時間を算出する
(365日※−1年間の休日合計日数)×1日の所定労働時間=
年間所定労働時間 ※閏年は366日を使用 - 月平均所定労働時間を算出する
年間所定労働時間÷12か月=月平均所定労働時間
月平均所定労働時間を固定化して運用することも可能ですが、この場合は、法律で定める計算により算出した値を超えないよう、留意が必要です。なお、月の平均所定労働時間が173.8時間(40時間÷7日×365日÷12か月)を超える場合には、1週間あたりの平均所定労働時間が40時間を超えるため、違法です。
(回答:福本 祐子)
Q.割増賃金の算定基礎に入れる賃金とは何のことですか?
A.残業をした時などに支払う割増賃金は、1時間あたりの賃金に各割増率をかけて計算します。
1時間あたりの賃金を算出するとき、対象となる賃金は労働の対価として支払われる賃金の総額となり、基本給以外に役職手当や資格手当など諸手当も含めなければなりません。
ただし、以下の手当は割増賃金の基礎から除外することができます。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金(退職金など)
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
なお、除外する場合は、手当の名称ではなく、実質により判断します。例えば、家族手当を実際の扶養している人数にとは無関係に一律で支給している場合や住宅手当を住宅に要する費用と関係なく定額で支給している場合は、除外することができません。
(回答:福本 祐子)