外国人雇用を進めるために理解しておくべきこと
昨今、日本で働く外国人労働者が増えています。労働者の国籍に関わらず労働法令の適用は原則変わりませんが、異なる部分や配慮が必要な事項を理解することが欠かせません。
今回は「外国人雇用を進めるために理解しておくべきこと」を解説します。外国人労働者を採用し、定着させ、活躍できる環境を整えていきましょう。
在留資格とは
在留資格とは、外国人が日本に滞在する根拠となるもので、「出入国管理及び難民認定法」(以下「入管法」と言います)に定める活動を行うことができる資格のことです。
在留資格とビザ(査証)が混在されることも多くありますが、外務省が発行するビザは日本に入国する時に必要になる入国審査を受けるためのもので、法務大臣が与える日本国内で行える活動の範囲や資格である在留資格とは異なります。
日本に入国可能なビザを持っていても、すぐに採用して就労できないケースもありますので、留意しましょう。
在留資格は執筆時点において、29種類存在し、大きく分けて4つのタイプに分類することができます。代表的な在留資格は(図.2)を参照してください。
外国人労働者を雇用するときに特に留意が必要なものとしては、原則、就労が認められていないものの、資格外活動許可や指定書により例外的に就労ができる在留資格です。
例えば、文化活動、短期滞在、留学、家族滞在は原則として就労することができませんが、留学、家族滞在については別途「資格外活動許可」があれば、短時間のアルバイト就労が例外的に認められる場合があります。
また、特定活動は申請内容に基づき、個別に交付される「指定書」という書類によって、活動範囲が決まる在留資格となります。ワーキング・ホリデーであれば、就労は指定書に記載されている範囲に限定されるため、指定書の内容を確認しましょう。
在留資格等の確認方法と在留期限の更新管理
外国人労働者を採用する際は、事前にパスポート、在留カード、資格外活動許可書(該当者のみ)、指定書(該当者のみ)を応募者に提示してもらい、必ず現物確認を行いましょう。不法就労とならないよう、適切な雇用要件を満たしているかどうかの確認は、受け入れ企業側の責任となります。
確認するポイントは、「在留資格」、「在留期間」、「在留期限」、「就労制限の有無」の4点です。例えば、留学生が行う資格外活動でのアルバイトの場合、在留カードの裏面の「資格外活動許可欄」を確認し、「資格外活動許可書」も同時に確認を行う必要があります。
特定活動の在留資格の場合では、パスポート等に「指定書」が添付されています。特にワーキング・ホリデーで来日している場合、就労は指定書に記載されている範囲に限定されるため、パスポートの確認も行いましょう。
在留資格の確認と同時に、従事させる予定の業務内容と本人が就労できる業務の内容が合致するか、確認を行うことも重要です。
例えば、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持つ場合、物流倉庫でのピッキング業務など現場での作業を行うことができません。申請した配属と異なる業務への配属、配置転換は虚偽申請と判断され、不法就労助長罪に問われる可能性がありますので、留意しましょう。
なお、在留期限を超えて外国人を就労させた場合も不法就労助長罪に該当し、罰則の対象になります。定期的に在留カードの原本を確認し、在留期限を超えていないかどうかを確認する仕組みを構築することが重要です。
受け入れ体制の整備
外国人労働者を雇用するために、まずは社内の受け入れ体制を整備しましょう。外国人労働者であっても、日本で就労する場合は、国籍に関係なく労働関連諸法令が適用されます。
ただし、在留資格の取得・更新・変更が適法に実施できなかった場合の内定取り消し、雇止め・解雇条項については、事前に就業規則を整備しておくことをお勧めします。
「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」では、外国人労働者が日本で安心して働き、在留資格の範囲内でその能力を十分に発揮する環境が確保されるよう事業主が行うべき事項について定められています。
このうち、労働契約の締結にあたっては、労働条件について国籍を理由にした差別的取扱いが禁じられているほか、外国人労働者の母国語や平易な日本語により労働条件を明示し、本人が理解できるような対応が求められています。
外国人労働者が就労する際、日本の雇用慣行についてあまり知らないこともあります。労働条件の明示と併せて、日本における法定労働時間や休憩、休日等の労働法令についても丁寧に説明し、説明不足によるトラブルを回避できるような対応が望まれます。
なお、休暇や休憩取得について、国籍や宗教を理由に差別をすることは禁止されています。外国人労働者が、宗教上の理由から不就労を希望する際に、本人の意志に反して無理やり有給休暇を取得させたりしてはいけません。
所定労働時間の設定方法や働き方について、本人と話し合った上で、合理的な措置をとるようにしましょう。
また、安全衛生教育の実施は外国人労働者についても義務付けられており、外国人労働者がその内容を理解できる方法によって行わなければなりません。
安全衛生の確保は重要なため、「危険」「触るな」「火気厳禁」などの重要な日本語を理解してもらうような教育を別途行ったり、ルビを振ることや、多言語や分かりやすい図で掲示するなどの工夫が必要です。必要に応じて、母国語に翻訳した安全衛生ハンドブックなどを整備するとよいでしょう。
外国人労働者の労働保険と外国人雇用状況の届出
労働保険のうち、労災保険は、日本で就労する限り、国籍や雇用形態を問わず、不法就労であっても適用されます。雇用保険は1週間の所定労働時間が20時間以上で、かつ31日以上の雇用継続見込みがあれば、加入させる必要があります(昼間学生等の適用除外者を除く)。
また、外国人労働者を雇い入れた企業は、すみやかに外国人労働者に関する情報を所轄公共職業安定所に提出することが義務付けられています。その際、対象者が雇用保険被保険者に該当する場合には、「雇用保険被保険者資格取得届」の備考欄に国籍、在留資格等を記入のうえ、資格取得手続きと同時に届出を行います。
一方、雇用保険に加入しない場合には、国籍や在留資格等を「雇入れ・離職に係る外国人雇用状況届出書」に記載し、所轄公共職業安定所へ届け出なければなりません。届出を怠ったり、虚偽の届出を行った場合には、30万円以下の罰金の対象となりますので留意しましょう。
外国人労働者の社会保険
社会保険(健康保険、介護保険、厚生年金保険)についても、日本人と同じ条件で加入させる必要があります。通常、週30時間以上働く場合に加入対象となりますが、平成28年(2016年)10月からは、労働者(被保険者)が501人以上の会社について、週20時間以上働く方などにも加入対象が広がっています。
外国人労働者の中にも社会保険料を払いたくない、と加入拒否をされる方がいらっしゃるお話を伺う機会もありますが、本人の希望有無に関わらず、法令で加入が義務付けられています。
日本人と同様に、加入手続きを怠ったり、社会保険加入を免れるために、個人事業主として請負契約を不適切に結ぶことは許されません。保険料負担と給付や社会保険制度について、理解を得られるように丁寧な説明をし、適切に手続きを行いましょう。
ただし、社会保障協定が締結されている国から来日している場合、保険料の二重払いを回避するため、「社会保障協定適用証明書」を取得していると、日本の社会保険に加入義務がないケースもあります。
募集、採用面接時など、雇用契約を締結する前から、国籍を問わず、社会保険の加入要件を満たす場合には、社会保険加入義務があること、給与から控除される保険料と給付について丁寧な説明をすることがトラブル回避につながるでしょう。
なお、日本国籍を有していない労働者が退職し、日本に住所を有しなくなった日から2年以内である等の要件を満たせば、国民年金・厚生年金について「脱退一時金」を請求でき、多言語に対応した請求書は年金機構ホームページから入手できます。
出国して、かつ、日本に住所を有しなくなってからの受給申請となるため、対象者に対して説明しておくとよいでしょう。
外国人労働者の給与計算
外国人労働者の給与計算を行う場合、国籍に関わらず、居住者か非居住者のどちらに該当するかにより、所得税の計算方法や作成すべき法定調書が変わります。国内に住所があるか、または現在まで引き続いて1年以上居所があれば、居住者として区分されます。
日本の居住者に該当する場合、年末調整(所得によっては確定申告)において要件を満たせば、配偶者控除や扶養控除を受けることが可能です。別居していても生計を一にする状態であれば、母国に残してきた親族を所得税法上の扶養親族にできますが、親族関係書類や送金関係書類が必要です。
国籍に関わらず、給与計算を行う際には、居住者・非居住者による所得税率の違いや年の途中で出国した場合の取扱いなど、多岐にわたる留意事項を理解し、正確に計算できるよう留意しましょう。
なお、外国人労働者であっても、日本国内で就労する限り、最低賃金は適用されます。技能実習生についても同様で、最低賃金法に基づき、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません。
留学生アルバイトの就労限度時間管理等
在留資格が留学の場合、就労限度時間を超えて外国人を働かせると、不法就労助長罪として罰せられる対象になるため、外国人留学生の労働時間管理には細心の注意が必要です。外国人留学生がアルバイトできる時間(上限)は、学校のある時期は週28時間以内です。
この週28時間とは、所定労働時間ではなく、残業時間を含みます。また、勤務先が複数あれば、全ての勤務先の合計で週28時間以内となりますので、副業・兼業をしている場合は、他就業先での勤務時間を把握し、通算した労働時間で週28時間以内となることを確認できる体制を整備するとよいでしょう。
夏休みなど、学則による長期休業期間には、1日8時間までに限度時間が拡大されており、この取り扱いは、日本語学校、専門学校、短大・大学・大学院のすべてに共通です。
夏休みなどの前後に休講が重なり、毎日アルバイトが可能な状態になっていても「学則による長期休業期間」でなければ、週28時間以内が上限のため、留意しましょう。
上記に加え、外国人留学生の雇用は在留期限と在留資格の面でも注意が必要です。在留期限を考慮して雇用契約期間を設定したり、留学生から定期的に在学証明の提出を受け、在留資格が維持できているか、確認を行う等の措置を行うことが望ましいでしょう。 (執筆:福本 祐子)
福本 祐子
現職 社会保険労務士法人みらいコンサルティング
特定社会保険労務士 シニアコンサルタント
事業会社を経て、社会保険労務士事務所入所後、2007年社会保険労務士試験合格、2014年みらいコンサルティンググループ入社。
労務顧問・アウトソーシングサービス業務を担当後、現在は、IPO、海外進出、外国人雇用の適正化を含めて幅広く人事労務コンサルティング業務に従事。